果たして日本の皇室は本当に「尊い」存在なのでしょうか。
確かに、この年表を見る限り、他の国や地域では何度も王朝交代があった中、日本の天皇王朝(皇室)だけは、途切れず現在まで続き、現存する王朝では最長・最古とは言えます。 (もっとも、一度も天皇の血筋が途切れていなければ話で、実際は何度か断絶しているという説も有力です。)
しかし、日本の皇室が世界最古の王朝だとして、それがどうしたというのでしょうか。 そんなことに何の価値があるのでしょうか。
それでも、日本の皇室は世界で最も古く最も尊いのだと至極ご満悦で、自慢したくて仕方がないのが、この本の著者、渡部昇一氏です。
同氏は、上智大学名誉教授で英文学専攻ですが、天皇崇拝思想に魅入られ、右派保守論壇の重鎮の地位にあります。
ところがこの本、皇室は尊いという独断と皇室の自慢話に終始するばかりで、皇室が「なぜ」尊いのかという肝心の「証明」が書かれていないのです。
近頃はこの渡部昇一先生、年齢(83歳)もあり、理論的思考より感傷的気分が勝ってしまうようで、そのせいかも知れません。
そこで最近、旧皇族の子孫竹田恒泰氏(明治天皇の玄孫 38歳)なる胡散くさい人物が、渡部昇一氏の跡を継ぐように、天皇崇拝思想を、マスメディアまで駆使して触れ回っています。
実は、天皇王朝の実態は、想像以上に貧相で醜いものです。
千数百年前の古代、乱立する豪族の中から武力闘争を勝ち抜き国内を統治、大和王権を成立させました。
しかし、平安中期以降、摂関政治で無力化し、鎌倉武士政権期に入ると完全に権力を失い権威も失墜、以降、南北朝の内紛を経て、明治維新まで実体のない死に体のまま、民衆に忘れられた存在でした。(例えば、江戸時代の農民や町人にとって、天皇なんかどうでもいいことで、尊崇の対象ではありませんでした。 もちろん「天皇陛下万歳」なんて言葉も無かったのです。)
ただ明治維新から敗戦までの間だけは、天皇が国の形式的な主権者に担ぎ上げられます。
さらに、天皇を神聖不可侵の神として崇拝するよう国家権力が国民に強要した結果、一時的に国民に天皇が意識されるようになりました。
「天皇陛下万歳」という言葉が生まれたのも明治になってからです。
そして敗戦、米軍の占領統治上の都合で天皇は戦犯訴追や廃絶は免れたものの、新憲法の下で再び元のどうでもいい存在に戻り、現在に至っています。
従って、そんな天皇王朝(皇室)が、「尊い」存在で日本の伝統・文化を体現していることなどあり得ないのです。
保守論客の大御所渡部昇一氏や旧皇族を売りにする竹田恒泰氏のような皇国史観信奉者たち(他に西尾幹二氏、中西輝政氏、八木秀次氏、田母神俊雄氏ら)の主張は、戦前の天皇崇拝政策に回帰し、天皇の影響下に行われたの戦争の美化・正当化に目的があり、決して看過できません。
© 2014 HIRAI HIROAKI